コウガイケカビ: 2011年8月アーカイブ


_DSC5027_L.jpg インゲン畑の中で、不思議なものを発見しました。枯れてしまったインゲンのつぼみが、なにかに取り付かれているようなので、思わず近づいてみたのです。すると枯れたつぼみ全体が、まるで無数のマチ針で突き刺されたようになっていました。


_DSC5027_s.jpg針というよりは、その1本1本が、微細なガラス繊維のような光沢をもっている。これは菌類ですね。キノコのように黒い頭の部分に胞子があるのでしょうか‥。
野菜を喰うのは昆虫や動物だけと思い込んでいて、菌類には思考がおよびいたりませんでした。たしかに菌類もベジタブルカフェの常連のはず。
黒川の畑全体に察眼をもっと働かせてみよう。




『カビ図鑑』全国農村教育協会刊の共著者出川洋介さんが、このカビの名前と、専門家ならではの魅力的な解説を次のようにしてくれました。


コウガイケカビ属:
枯れた花に生える接合菌類のカビ
分類:接合菌門ケカビ目コウガイケカビ科コウガイケカビ属

熱帯地方に広く分布するカビですが、日本でも真夏の猛暑の間に限って、アオイ科(ムクゲ、フヨウなど)、ヒルガオ科、ウリ科、ユリ科などのいわゆるDay flowerと称される一日で咲いて落花する花や、果実、ときに腐りかかった植物体などの上に発生します。

熱帯では周年見られますが、日本では、発生期はほぼ7・8月に限定され、他の時期は、死滅するか、休眠胞子で耐えているものと思われます。稀に、貯蔵果物などに発生して、病害菌扱いされることがありますが、病原性は弱く、毒素生産もありません。
 
変形菌よりも細長く伸びる、単細胞の透明な(干渉作用で虹色に光るように見える)胞子嚢柄の上に、黒い胞子の塊を乗せています。検鏡して胞子の数や、胞子の表面模様などにより、属や種が同定できます。

また条件により幾つかのタイプの胞子を形成しますが、附属糸のついた胞子を作る性質を持っており、昆虫などにより分散されるのではないかと推定されています。このため、ひとつの花に、複数所由来の胞子が到達し、そこに雌雄が揃うと、落花の上で、有性生殖をし、接合胞子という休眠性の胞子を形成して、土中で翌シーズンまで休眠すると考えられます。
 
なお、和名のコウガイケカビのコウガイとは、「笄」で、胞子嚢柄先端部の形が、昔の女性の髪飾りに類似していることに由来します。きらわれもののカビですが、丁寧に観察すると、なかなか、きれいな姿をしており、夏の風物詩として楽しんで頂けたらとおもいます。
 
なお、コウガイケカビを含むケカビ目は、一般に土壌中に広く分布し、糖分を好むため、落果や、動物の糞などによく見られますが、早成長、早胞子形成により特徴づけられるグループで、クモノスカビなどはその性質を利用して、醸造や発酵食品(テンペ)の製造などにも応用されています。

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